ニューヨークだより 2018年4月
「米国におけるワーキングスペースの現状(2)(インキュベーター、アクセラレーター)」
2018年5月7日
省庁・団体名
JETRO/IPA NewYork
内容
前号の(1)コワーキングスペースに引き続き、(2)インキュベーター、(3)アクセラレーターの現状について報告します。
(1)コワーキングスペース:独立して働く個人又はスタートアップ企業がオフィスの基本的な設備を共有しながら仕事を行う場所。異なる利用者同士の交流やコミュニティの形成を促す傾向が強い。
(2)インキュベーター: 企業や大学等において起業や事業化をサポートする事業者または施設
(3)アクセラレーター: 起業後間もないスタートアップ企業のために短期間でビジネスモデルが実行可能なものとなるように教育したり、投資家探しを支援したりする事業者または施設
インキュベーターとアクセラレーターの最大の違いは、非営利型(non-revenue)か営利型(revenue)かであり、支援期間も1〜5年と3〜6カ月とで異なります。
インキュベーターの例として以下を取り上げました。
•ユタ大学: ライセンス収入とスタートアップ設立件数が多い
-「エンジン委員会(Engine Committee)」(外部の投資家、起業家、専門家等による協力者ネットワーク)による新技術のスクリーニング及び関係者の引き合わせ
-技術商用化を目指す大学内の研究者及び学生をつなぎ起業を支援するEntrepreneurial Faculty Scholars(EFS)プログラム
-ビジネスプランのコンペやネットワークイベント及びワークショップの開催等を通じて学生の起業を支援するLassonde Entrepreneur Institute
-Lean Cohortと呼ばれる技術発明者/開発者、ポスドク等の研究者、企業経験者の3人が一組となって商用化を目指す7週間の集中プログラム
•コロンビア大学: 多くのライセンス収入と研究費の効率化
-「死の谷」を乗り越えるため、クリーンエネルギー、デジタルメディア、バイオメディカル、メディカル分野での関連組織の設立、連携に参加
-業界の有力者、起業家、投資家などを定期的に招致し、大学内の研究者及び学生による起業活動を支援する「Executive-in-Residence」プログラム
また、インキュベーションを活用する大手テクノロジー企業の例として以下を取り上げました。
•Google社
-サンフランシスコのオフィス内に社内インキュベーター制度「Area 120」を創設。業務時間の20%まで担当業務以外のプロジェクトに従事できる方針に由来。
•Facebook社
-ロンドンに「LDN_LAB」を開設。英国のスタートアップを対象にインキュベーターコース(同社幹部による指導等)を実施。
•IBM社
-カナダのオンタリオ州の主要都市のイノベーション中核拠点に「IBMイノベーションハブ(IBM Innovation Hub)」を併設し、同州に拠点を置く有望な企業を対象に、「IBM Watson」や「IBM Bluemix」を含む同社の技術インフラのほか、ワークスペースや顧客ネットワークへのアクセス機会を提供。
•Verizon社
-コワーキングスペースプロバイダAlley社と提携し、不要となった通信設備やコンピューター機器の収納施設の一部を改装し、「Alley, powered by Verizon」と称するイニシアチブの下で施設を共同運営しながら、先端技術分野におけるスタートアップの育成に注力。
アクセラレーターの例として以下を取り上げました。
•Y Combinator社
-現在はシリコンバレー中心。
-同社のプログラムを卒業した企業や投資家、特定のメディア企業およそ500名の前でプログラムの参加スタートアップがそれぞれ2分間で各サービスについて売り込む「デモ・デー」は業界一大イベント。
-英ニュース経済誌Economistによれば「同社のプログラムを卒業した起業家ネットワークは現プログラムに参加するスタートアップの交渉力を強化する労働組合のような役割を果たしており、投資家とスタートアップの関係にも変化をもたらしている。」
-同社が培ったスタートアップ立ち上げのノウハウを幅広く共有し、世界中のより多くのスタートアップを支援するため、2017年4月「Y Combinator Startup School」と呼ばれる10週間のオンラインプログラムの提供も開始。
•TechStars社
-シリコンバレー以外の米国の各地域に幅広い投資家等のメンターネットワークを有する。
-これまで、多様な業界における大手企業と連携し、アクセラレーションプログラムを提供。世界的な金融グループであるBarclays社と共同でTechStars社が2014年に英国ロンドンに立ち上げたフィンテック分野に特化したアクセラレーションプログラム「Rise」は、現在、英国のロンドン及びマンチェスター、ニューヨーク、リトアニア(ヴィリニュス)、南アフリカ(ケープタウン)、イスラエル(テルアビブ)、インド(ムンバイ)の世界7都市で運営されており、スタートアップと大企業がオープンイノベーションを創出している。
日本においても、特に若い世代における就業意識の変化、コワーキングスペース、インキュベーター、アクセラレーターの数の増加、スタートアップへの資金投資の増加などが見られます。一方、2018年3月に行った「ニューヨーク・イノベーション・セミナー ‐世界有数のスタートアップ都市に学ぶ‐」において登壇者からは、大学や企業の周辺との人的ネットワークの活用の重要性、特に日本の大企業における企業内の起業、大企業とスタートアップとの連携をサポートするエコシステムを望む声が上がっており 、人的ネットワークによる交流やコミュニティを活用したワーキングスペース(働き場)の形成がそうしたエコシステムが成長に資することを期待します。
詳細
お問い合わせ
Kiyoshi Nakazawa (中沢潔)
JETRO New York (Representative office of IPA)
565 Fifth Avenue, 4th Floor, New York, NY 10017
TEL: +1-212-997-0401 / FAX: +1-212-997-0464