「経営に役立つ会計」何のための会計?(3)~最も重要な指標とは~

2015年8月1日

CSAJ 監事 公認会計士・税理士・ITコーディネータ 山田隆明

 知り合いの会計事務所から聞いた話。
 クライアントC社の状況が急に悪化したことに気付いて社長に連絡した。
「このままでは今期の利益はゼロです。そうなれば現金預金が不足しますが、これ以上の銀行借入はできません。まさに会社は危機的状況です、早急に対策を打合せしましょう」と。
しかし社長は「今期は受注が好調だったんだ、じっさい利益も先月までは2,000万円あった。今月減ったというのは会計処理の間違いだ。通期では当然黒字のはずだ」と聞く耳を持たない。
しかも「現金預金も期首に2,000万円もあったのだから、利益2,000万円を乗せて現金預金は4,000万円になるはずだ、何も問題ない」と。

 ところが2か月後に決算を閉めてみたところ、案の定年間利益はゼロであった。
あのときの社長の「間違いだろう」は都合の良い思いこみにすぎず、実は会計処理は正しかった。というより間違っていたのは前月までの方で、実際は2,000万円もの利益は出ていなかったのである。にもかかわらず、今期は好調だとの思い込みから油断して浪費をしたため本当に利益が無くなってしまったという話であった。

 この話には「経営者が知っておかねばならない会計」について考えさせられる点が多い。浪費については社長も反省しているらしいが、それよりも本質的に重要な問題がある!

本質的な問題とは次の2点である。

(1)現金預金の管理(資金繰り管理)を行ってこなかったことである。

 行わなかったのは、そもそもその重要性を認識していなかったからである。
その重要性を説明するにあたり、まず現金預金と利益の関係を説明する必要がある。
利益とは会計上の概念にすぎない、すなわち利益という「モノ」はない。
一方で、現金預金という「モノ」はある。しかもモノを買うことができるのは現金預金である。このため利益よりも現金預金の方が経営にとって大切なのである。現金預金が無くなったら会社を続けることはできなくなる。
 にもかかわらず、ほとんどの経営者は、利益には関心があるが現金預金には関心がない。じっさい、「最近どうですか」とお尋ねすると、ほとんどの方は「利益がどうのこうの」とお答えになるが、「現金預金がどうの」とお答えになる方はほとんどおられない。
 しかも現金預金は回収・支払の条件や借入金返済などにより大きく変動する。
じっさい今回のケースでも、売上の回収に時間が掛るものが多かったことや借入金返済が多かったことなどにより、現金預金は間もなくゼロ近くにまで減少し、あと一歩で経営破たんするところであった。そのため、現金預金の管理はより慎重に行わなければならない。
 にもかかわらずC社の社長が現金預金管理を怠り、自分の勘だけに頼って経営を行ってきたのは、「成行経営」を通り越して「放漫経営」と言わざるを得ない。
 この現金預金の管理は、通帳残高を見て現在の有高を資金繰り表に書き込むことと、今後の入出金の予定を把握して同じく資金繰り表に書き込むだけで簡単に実施できる。何ら会計の知識の要らない作業である。子供の小遣い帳とたいして変わらない。「数字は苦手だから」という言い訳は通用しない。
 このように、現金預金の重要性に無知であることに起因して、その管理を怠り、放漫経営を続けたことが本質的な問題の一番目である。

(2)もう一つは、現金預金の先行指標である利益についても把握してこなかったことである。

 利益が現金預金の先行指標である理由は、利益は売上・仕入を計上した時点で発生するが、現金預金は売上回収・仕入支払の時点で増減し通常は利益発生時点より後になるためである。
先行指標ということを今回のケースに当てはめれば、先に利益がゼロになって、その後に現金預金の減少が始まるということである。
 上述のとおり利益よりも現金預金の方が大切であるが、その現金預金の先行きをダイレクトに予測するのは困難なので、先行指標としての利益の把握が有効なのである。
 こちらの方は(1)より少しスキルが必要で会計処理を必要とする。とは言っても経営者自らが会計処理を行う必要はない、経理スタッフまたは会計事務所にまかせればよいのである。そして、出てきた利益の金額だけを見ればよいのである。そこには、「借方・貸方」やら「減価償却」などといった専門用語は必要ない。
 しかしC社の社長は利益の把握を行ってこなかった。それどころか置かれた状況が危機的なことに聞く耳すら持とうとしなかったことが本質的な問題の二番目である。

経営者がこういったことを認識し実行することは極めて重要である!
それをせず「放漫経営」を行ってきたC社はほんとうに危機的状況であった!
運よく破綻せずに済んだのはまさに奇跡的だった。

(注)本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、当協会の見解を示すものではありません。

筆者略歴

山田 隆明(やまだ たかあき)
山田隆明公認会計士事務所 所長
公認会計士・税理士・ITコーディネータ

山田 隆明Twitter

1959年 名古屋市生まれ。東海高校、慶応義塾大学経済学部卒業 。
株式会社インテック(基幹業務パッケージソフトの企画及び販売)、
監査法人(会計監査)を経て、
2003年 山田経営会計事務所開業、現在に至る。
---税務だけでなく、経営判断のための会計、人をヤル気にする会計を。
2009年9月から一般社団法人コンピュータソフトウェア協会監事。

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