「溜池備忘録」その2 「アワードって何ですか?」
2015年9月15日
CSAJ 専務理事 前川 徹
金持ちはセレブではない
前回、SE(システム・エンジニア)が和製英語であるという話をしたが、「セレブ」も和製英語である。セレブは、セレブリティ(celebrity)を略した言葉であるが、英語のcelebrityは(辞書を引けばすぐにわかるが)有名人や著名人、名士のことであり、それもただ単に一般に名前が知られているだけではなく、マスメディアを通じて大衆の関心を集めている人を指す言葉である。つまり、セレブやセレブリティは、本来、新聞・雑誌・テレビなどで取り上げられている有名人や著名人のことである。しかし、日本ではリッチで優雅な女性や、ちょっと派手な生活をしているお金持ちがセレブだということになっている。
こうした本来の意味から離れて、異なった使い方をされている和製英語は昔から沢山ある。本来は豪邸や大邸宅を意味する「マンション」もそうだし、本来は「子供っぽい、世間知らず、騙されやすい」というネガティブな意味をもつ「ナイーブ」もそうである。
豪邸に住んでないのに、外国人に英語で「私は都心のマンションに住んでいます」とか、誰かを褒めようとして「ナイーブですね」なんて言ってはいけない。
アワードとAward
「賞」を意味する「アワード」も和製英語だと言ってよいだろう。英語ではawardと書き、発音は(カタカナで書けば)アウォード、複数形はアウォーズである。どれだけ英語風にアワードと発音してもawardだとは気付いてもらえないだろう。
IT業界にもアワードが数多くある。グリーンIT推進協議会の「グリーンITアワード」。特定非営利活動法人ASP・SaaS・クラウド コンソーシアム主催の「ASPICアワード」、情報処理学会の「ソフトウエアジャパンアワード」、「Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード」、「@cosmeベストコスメアワード」、「デジタルサイネージアワード」など、いくらでも挙げられる。
ちなみに、全国のPOSデータを元にパソコン関連・デジタル家電関連製品の年間販売数で選ばれる「BCN AWARD」や情報サービス協会の「JISA Awards」も、綴りは英語であるが、関係者のほとんどは「アワード」と発音している。アルファベット表記なのだから、これらは、「アウォード」、「アウォーズ」と発音すべきではないだろうか。
warの発音
英語ではwarは「ウォー」と発音する。ジョージ・ルーカスの製作総指揮の名画「STAR WARS」を「スターワーズ」と読む人はいない。温かいという意味のwarmは「ウォーム」であって「ワーム」ではない。ワームと発音すると「脚のない細長い虫」を意味するwormだと誤解されるだろう。
少し綴りは違うが、ソニーのWalkmanは「ウォークマン」であって「ワークマン」とは読まない。ワークマンだとworkman(作業員)になってしまう。
そうそう、スターウォーズで思い出したが、時空のねじれを利用して瞬間移動することを日本語で「ワープ」というが、これは「ねじれ」、「歪む」「曲げる」などの意味をもつwarpが原語で、英語では、やはりウォープと発音する。
家具といえばアイキーア
日本人がwarをワーと発音してしまうのは、おそらくローマ字の影響だろう。「あいうえお」をローマ字では「aiueo」と表記するので、aをア、iをイ、uをウ、eをエ、oをオと発音してしまう。しかし、英語の発音がそうでないことは周知のとおりである。たとえば、busはバス、truckはトラックであり、誰もブスとかトルックとは言わない(阪神タイガースのMatt Murtonはマット・マートンであって、マット・ムートンではない)。
そういえば、台湾のパソコン、周辺機器メーカーのASUSは、当初「アスース」と呼ばれていたが、最近は「エイスース」と発音されることが多い。たぶん、アスースよりエイスースの方が英語の発音に近い。aはエイだからである。
同じように単語の先頭にくるiはアイと発音されることが多い。iPhoneやiPad、iPodの先頭のiはすべてアイと発音する。
面白いのは世界最大の家具販売店のイケア(IKEA)である。英語では「アイキーア」(キにアクセントがある)と発音する。しかし、イケアはスウェーデン発祥の企業であり、スウェーデン語では「イケーア」と発音するそうなので、日本語のイケアの方が現地の発音に近い。
ちなみに、MaegawaのMaeはメイと発音されることが多い。リーマン・ショック時に国有化された米国の連邦住宅抵当公庫ファニー・メイ(Fannie Mae)と同じである。
筆者略歴
前川 徹 (まえがわ とおる)
1955年生まれ、1978年に通産省入省、 機械情報産業局情報政策企画室長、JETRO New York センター 産業用電子機器部長(兼、(社)日本電子工業振興協会ニューヨーク 駐在員)、情報処理振興事業協会(IPA)セキュリティセンター所長 (兼、技術センター所長)、早稲田大学 大学院 国際情報通信研究科 客員教授(専任)、富士通総研 経済研究所 主任研究員などを経て、2007年4月からサイバー大学 IT総合学部教授。2008年7月に社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。