「専務のツブヤキ」
~デジタル化・DX推進の本質は何なのか、経済安保法に基づく認定供給確保計画~
2024年5月15日
SAJ 専務理事 笹岡 賢二郎
4月25日にJapan IT Week春がビックサイトで開催され私も足を運び、 デジタル時代の経営変革を事例から読み解く- DX推進の本質とデジタル勝者への分岐点 - という対談を聴講しました。内容は、中小企業製造業の経営者や現場の担当者の視点から デジタル化・DX推進の本質は何なのか をテーマにしたものでした。役所からは経済産業省商務情報政策局情報産業課企画官の和泉 憲明氏、企業側は高級カーテンを製造販売している株式会社インテリックス(※)代表取締役の木村 明人氏とシステム担当者の2名でした。
※: https://www.interix.co.jp/ 従業員:340名【女性が80%以上】、売上:40億円
発端は、木村氏の素朴な疑問からでした。なぜ、同一のカーテンなのに価格が複数あるのか、無料サービスという不明瞭な価格慣行(結局価格に上乗せ)、オーダーメードなのだから納期が長いのは当然といったものでした。 もっと簡単に売れないのか という指示を部下に出したそうです。そこで、まず、 中間マージンを取り除く ということに着手しました。注文から縫製、販売まで中間業者を通さず全て自社で行う 直販(小売)に挑戦 しました。そのため、 注文データから販売まで全て一気通貫でシステム化 することが必要になります。ただ、データは元々あったのですが、それを活用していなかっただけなので、自社で対応することは可能ですし、それで 既存データを活用するだけで生産性が飛躍的に向上 することが分かったとのこと。この知見は他の事業者にも役に立つ示唆かと思います。その結果、高級カーテンを素早く短納期で1~2万円で作れるようになり、 高級市場がコモディティ(日用品)化し、市場が広がった とのこと。このデジタル化が同社の飛躍の源泉となったようです。まさに、これが DX推進の本質、デジタル化をツール(手段)として経営課題の解決に実際に役立てること かと理解した次第です。
実は、九州経済産業局に勤務していた時、IT化で経済産業大臣賞を受賞した中小企業(製造業)の話を聞いたことがありますが、今回の事案と同じでした。IT化により、製品毎、従業員ごとの原価及び生産性を「見える化」しました。その結果、従来からの大口取引先は利益に貢献していなかったこと(逆にあまり重視していなかった取引先で実は利益を稼いでいた)、残業している高く評価していた従業員の生産性が実は最も低く、逆にパートのおばちゃんの生産性が一番高かったことなどがわかり、それは目から鱗だったそうで、それをもとに経営を変えたら会社の利益率が飛躍的に向上したそうです。これもITをツールにして経営課題の解決に役立てた事案でした。このことから、 IT化、デジタル化の本質はあくまでもそれをツールとして経営課題の解決に如何に役立てるか ということかと改めて感じ入りました。
あと、ビックサイトの会場では、生成AIを活用した経営支援サービスが色々提供されていました。私が特に目に付いたのはギブリ【Givery】という会社のサービスでした。基本的な流れは ①対象を絞ってPoC⇒②利用率を上げる⇒③既存業務に適用させる⇒④業務フローを変える というもので、①~④の各段階でサービス・製品を提供していました。実績を見てみると、日清食品では同社とともに営業・製品開発・バックオフィスなど20部門以上で累計150超の業務にフィットしたプロンプト【ユーザーがAIに対して入力する命令や指令】を開発し特定部門のGPT利用率が70%超で年間3万2000時間の業務削減が見込まれているとのこと、また、清水建設では全社員向けに同社の法人向け製品を導入して、アイデア出し、資料・文書作成、プログラミングなどで活用し生産性向上に役立てたなどでした。 大手企業は生成AIを既に業務に相当程度活用 していることがよくわかりました。以上ですが、展示会も人手は完全にコロナ前に戻っている様相で活況を呈していました。
次に、経済安保法に基づく認定供給確保計画(重要物質:クラウドプログラム)ですが、連休前後(4月15日~5月10日)に
さくらインターネット(他にGMOインターネットグループ、KDDI、ソフトバンクなど)を含む6社に対して、幅広いAI開発者が利用可能な計算資源(NVIDIA H100、NVIDIA H200、NVIDIA B100等)を国内に整備する計画(計50FLOPS超)が経済産業省から認定(支援決定)
されました。今回、当該6社に対して令和5年度補正予算(1,166億円)を元に最大でほぼ同規模の財政支援がコミットされたわけです。補助率は最大二分の一ですので支援を受ける
企業側もそれなりの投資リスクを負う訳ですので今回の決断をした経営者にも敬意を表したい
と思います
最後に私事(弓道)で恐縮ですが4月20日に昇段試験を受けて、無事に参段になりました。一昨年の5月に初心者教室から再開し、2年ですのでまだまだ若輩ですが、引き続き弓道の方も頑張ります(^_^;)
筆者略歴
笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)
1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、機械情報産業局鋳鍛造品課、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:一般社団法人ソフトウェア協会)専務理事に就任。