「専務のツブヤキ」
~国内投資促進パッケージ、AI事業者ガイドライン~
2024年2月15日
SAJ 専務理事 笹岡 賢二郎
今回は、昨年12月に出された 国内投資促進パッケージ とパブコメにかかっている AI事業者ガイドライン についてツブヤキたいと思います。
前者は、日本経済をデフレ(物価も賃金も上がらない)に起因するこれまでの「コストカット型」から 賃金も物価も上がり続ける「成長型経済」 にして行こうというものです。既に 民間設備投資は今年度100兆円規模(過去最高水準) となり、 賃上げも30年ぶりの高水準で最低賃金が4.5%上昇 するなど正常化への過渡期として、痛みが伴っている部分もありますが、明確に 変化の兆しが感じられます 。そこで政府が打ち出したのが、供給力強化の取組を予算・税・規制で具体化した国内投資促進パッケージという訳です。今回は税を中心に主要な四つの中身を見てみます。
① 戦略分野国内生産促進税制 の創設
これは世界で戦略分野への投資獲得競争が活発化する中、戦略分野のうち、特に生産段階でのコストが高い事業の国内投資を強力に促進するため、過去に例のない新たな投資促進策です。具体的には、①電気 自動車、グリーンスチール、グリーンケミカル、持続可能な航空燃料(SAF)、半導体(マイコン・アナログ)等( 残念ながらソフトウェアは含まれていません が、、、)を対象に、 ② 生産・販売量に応じた税額控除 を、③ 10年間の適用期間で措置 するものです。
② イノベーション拠点税制 (イノベーションボックス税制)の創設
海外と比べて遜色ない事業環境を整備し、我が国のイノベーション拠点の立地競争力を強化する観点から、国内で自ら研究開発した知的財産権(特許権、 AI関連のプログラムの著作権 )から生じるラ イセンス所得、譲渡所得を対象 に、 所得控除30%を措置 するもので 適用期間は7年間 とされています。
今後 ソフトウェアについてAI関連の部分をどう定義するか 、これによって協会会員企業への本税制による恩恵が相当影響を受けますので、 今後とも経済産業省と意見交換を密に行っていく 予定です。
③ 賃上げ促進税制の拡充・延長 (さらに3年間)
政府は本気で30年ぶりの高い水準の賃上げを一過性のものとせず、構造的・持続的な賃上げを実現することを考えています。具体的には、①大企業向けには、より高い賃上げへのインセンティブを強化するため、現在の賃上げ率の要件を維持しながら 更に高い賃上げ率の要件を創設 するとともに、②中小企業向けには、 前例のない長期となる5年間の税額控除の繰越措置 を創設することにより、 中小企業が赤字等の厳しい状況でも賃上げを行える ように支援されます。
また、③地域において賃上げと経済の好循環の担い手として期待される中堅企業向けの新たな枠を創設します。さらに、雇用の「質」も上げる形での賃上げが促されるよう、④ 教育訓練費を増やす企業への上乗せ措置の要件を緩和 するとともに、⑤ 子育てとの両立支援、女性活躍支援 に積極的な企業への上乗せ措置 が創設されます。
④ カーボンニュートラル投資促進税制の拡充・延長
カーボンニュートラルの実現に向けて企業の脱炭素化投資を加速するため、生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備の導入について、必要な要件等を見直すとともに、 脱炭素化に果敢に取り組む中小企業に対する税額控除率を引き上げ 、 適用期間が計5年(計画認定:2年間、認定から設備導入:3年間)へ拡充 されます。
要は、戦略分野の生産促進、知財政策及び賃上げの重視、カーボンニュートラルというのが政策の柱ですね。私的には、特に ③賃上げ、④カーボンニュートラルに関して中小企業を重視 している点が評価できるような気がしています。
後者のAI事業者ガイドラインについては、 AIにより目指すべき社会と各主体が取り組む事項 として以下のことが掲げられています。
• 法の支配、人権、民主主義、多様性、公平公正な社会を尊重するようAIシステム・サービスを開発・提供・利用し、関連法令、AIに係る個別分野の既存 法令等を遵守 、人間の意思決定や感情等を不当に操作することを目的とした開発・提供・利用は行わない
• 偽情報等への対策 、AIモデルの各構成技術に含まれる バイアスへの配慮
• 関連する ステークホルダーへの情報提供 (AIを利用しているという事実、データ収集・アノテーション手法、適切/不適切な利用方法等)
• トレーサビリティの向上 (データの出所や、開発・提供・利用中に行われた意思決定等)
• 文書化(情報を文書化して保管し、必要な時に、入手可能かつ 利用に適した形で参照可能な状態とする 等)
• AIリテラシーの確保 、オープンイノベーション等の推進、相互接続性・相互運用性への留意等 • 高度なAIシステムに関係する事業者は、 広島AIプロセスで示された国際指針を遵守 (開発者は国際行動規範も遵守)
• 「環境・リスク分析」「ゴール設定」「システムデザイン」「運用」「評価」といったサイクルを、マルチステークホルダーで継続的かつ高速に回転させていく、 「アジャイル・ガバナンス※」の実践 等
※ 常に周囲の環境変化を踏まえてゴールやシステムをアップデートしていくガバナンスモデル
これらは、抽象的な文言ですけど、皆さんも読んでみて同様に感じると思いますが、 私的にはAIの利活用において、我々が心すべき事項について網羅的に重要ポイントを押さえており、内容はイチイチごもっとも かと思った次第です。
筆者略歴
笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)
1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、機械情報産業局鋳鍛造品課、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:一般社団法人ソフトウェア協会)専務理事に就任。