「専務のツブヤキ」
~令和5年度補正予算、半導体デジタル戦略会議など~
2023年12月15日
SAJ 専務理事 笹岡 賢二郎
今月は、先日補正予算が成立したこと、それに関連した経産省の半導体デジタル戦略会議の動向などについてツブヤキたいと思います。まず、商務情報政策局関係のR5補正予算のデジタル関係の概要ですが、以下の通りです。経産省全体で4.5兆円ですが、ご覧の通りそのうち半導体・AI関係が2兆円程度を占めており、経産省のデジタルシフトには目を見張るものがありますね。
◆半導体・AI関係【2兆0,557億円】
<半導体関係>
➢ 次世代半導体の製造・設計技術等の研究開発・実証等【6,461億円】
➢ 先端性の高い半導体の生産基盤整備【7,652億円】
➢ 半導体等のサプライチェーン強靭化支援【5,754億円】
<AI関係>
➢ 計算資源の国内整備【1,566億円】
➢ AI開発の加速支援【290億円】
◆ 高度情報通信関係 【ポスト5G基金6,773億円の内数+5.1億円】
◆デジタルライフライン関係【127億円】
◆デジタル人材関係【8.6億円】
◆サイバーセキュリティ関係【5.1億円】
特に、AI関係ですが、半導体デジタル産業戦略会議によれば民間や産業技術総合研究所の計算資源の整備・拡充で 2027年度までに60エクサフロップス(EFLOPS) まで計算能力を高める計画です。私なりに計算してみると、60EFLOPSなら今回の補正予算でほぼ賄えますし、先日、経産省の方々と同社とのやり取りがテレビ東京の密着取材で放映されていましたが、APECの時に西村大臣がNVIDIAの社長にお会いしてGPU供給の約束を取り付けていましたので多分60EFLOPSは大丈夫そうですね(^-^) 高度情報通信関係では 地方自治体がデーターセンター用にインフラ整備(電力、工業用水など)を行う費用を賄う交付金 です。わが国は地震等自然災害が多いことを勘案すると、この予算によりデーターセンターの拡大が地方中心に進むことは安全保障上も当然のことかと思います。また、経済安保推進法に基づく半導体サプライチェーンの強靭化では、半導体「安定供給確保取組方針」が改定され、技術管理への対策として、計画認定に当たって、
・ 重要技術へのアクセス管理 (重要技術の特定・管理体制、アクセス可能な者の限定)
・ 重要技術を扱う者への対応 (守秘義務誓約、再雇用制度含めた適切な待遇)
・ 取引先企業との秘密保持契約、外国への技術移転への対策 等
を確認することが追加されるようです。要は、アメ(補助金など)も与えるが、技術の流出への対策を厳しく監視するとのことですね。例えば、 米国では、CHIPS法で助成対象者は、懸念国(中国・ロシア・イラン・北朝鮮)に関し、助成後10年間は厳しい技術管理ルールに従うことを求められ、それに違反した場合には助成金の返還 が求められていますからね。日本も遅ればせながら、ようやく技術管理の厳格化に動き出したようです。さらに、税制優遇措置でも対象物資は半導体などに相当程度絞られるようですが、 戦略物資生産基盤税制 の創設が大詰めを迎えています。これは 投資後も生産・販売量に応じた税額控除に加え税額控除額の20年繰越・売却等を認める 画期的な内容であり、決まればサプライチェーンの強靭化に大いに貢献することでしょう。
ここからは私のツブヤキですが、国はこのように躍起になって半導体を中心にデジタル産業を相当前のめりに支援してくれているのは良いのですが、果たしてそれを受ける 民間側(N、F、Hなど?)は、どうなんでしょうか、TSMC、NVIDIA、AMD、GAFAMなどの背中が見えるようになるのかなぁ と思っているのは私だけでしょうか(^_^;)
次ですが、11月22日に「 サ イバー攻撃による被害に関する情報共有の促進に向けた検討会 」の最終報告書が公表されました。実は、私はIPAでセキュリティセンター長をしていた時にJ-CSIP(サイバー情報共有イニシアティブ)を立ち上げ、防衛、電力、ガス、化学など重要産業インフラごとに標的型攻撃などのサイバー攻撃を受けた際に 「攻撃技術情報」から被害組織が推測可能な情報を非特定化加工して情報共有する仕組みを構築 に苦労した思いであります。今回の報告書では、そのJ-CSIPのノウハウを広く展開して、重要インフラだけでなく広く一般化することが必要であると指摘しています。私的には、ソフトウェアISACの今後の活動にも関わりますので、この報告書の提言の実施についてこれからも注視していきたいと思います。
このように、来年もデジタルで熱い状況に変わりはなさそうです。その意味で、会員の皆さんにとっても良い年になるでしょうと期待して今年最後のコラムを締めくくらせていただきます
筆者略歴
笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)
1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、機械情報産業局鋳鍛造品課、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:一般社団法人ソフトウェア協会)専務理事に就任。