「専務のツブヤキ」
~総合経済対策(11/2)、GX実現に向けた専門家ワーキンググループ(10/26)~
2023年11月15日
SAJ 専務理事 笹岡 賢二郎
今月は、先月の総理所信表明演説(10/23)に始まり、先日、総合経済対策が打ち出されましたので、それらについてツブヤキたいと思います。総理の演説原稿を改めて見ると、最初の見出しは 「経済、経済、経済」 (^_^;)となっています。コロナは収束を向かえましたが、円安、インフレ(物価高騰)により、国民の関心、不満を総理も相当気にしているということでしょうか。基本的には賃金の上昇がインフレに追い付かず、実質的に国民の生活は苦しくなっている実情を少しでも緩和する対策を出さないと次の衆議院選挙は戦えないという危機感の表れでしょう。現に 岸田内閣の支持率は30%を切る世論調査も出てきており、年内の衆議院解散はもちろんないでしょうが、ちょっとヤバいかな という気がしています。
当面は、一時的ですが、即効性のありそうな減税(一人当たり4万円)とそれが及ばない階層への給付金(一所帯当たり7万円)が目玉になっていますが、持続的な賃金上昇には産業の成長が不可欠です。そのために注目されているのが、 経済成長のキーとなる半導体、蓄電池、デジタル化 などです。総合経済対策を見てみると、物価高対策で6.3兆円、 成長力の強化・高度化に資する国内投資の促進に4.7兆円 など国・地方の歳出を合わせて財政支出の規模は21兆円となっています。ただ、最近の世論調査では、あまりこれは評判がよくありませんね。国民から選挙対策でしょうというのを見透かされている気がします。
ちょっとその中を見てみると、 先端・次世代半導体や蓄電池の国内生産拠点の整備 、 研究開発支援 、 重要物資の安定供給のためのサプライチェーン強靱化 を通じて、国内投資を促進するとともに、地域の関連事業及び人材の集積・育成を通じて、地方経済の活性化を図るとし、併せて、 次世代半導体産業の円滑な推進に関して、必要な法制上の措置を検討するとされており、引き続き補助金を積み増すとともに、予算が巨額(兆円オーダー)に上るため半導体産業に関しては新たな立法措置も検討 するとのことです。国民一般には受けの悪い総合経済対策ですが、私的には産業政策としては至極真っ当な内容かと思いますが、皆さんもそう思いませんか。 半導体等で2兆円ですので、私的にはまあまあかな という気がしていますが、、、(^_^;)
GX・DX分野の国内投資を拡大し、あらゆる分野での社会変革を推進するため、我が国の AI開発力の強化やAIに係るルール整備 に取り組むこと、また、DXについては、引き続き5Gシステムやデータセンター等に必要な先端半導体等の国内生産拠点整備や研究開発を支援すると書かれています。 データセンターの新規拠点を地方に設置する際に課題となる、電力・通信インフラ及び建屋・設備の整備を支援 することも今回の総合経済対策に盛り込まれています。今後、 AIの計算基盤を強化するためにもデータセンターは欠かせません 。これも非常に真っ当な方向の政策ですが、 欧米及び中国の政策と比べてどうでしょうか? という気はします(^_^;)
さらに、イノベーションを牽引するスタートアップ等の支援に向けて、地方における未踏的なアイデア・技術を持つ若手人材の発掘・育成や、 世界各地のスタートアップ・エコシステムへの5年で 1,000 人規模の起業人材の派遣 により、地方や海外における起業家育成に取り組むとした点も注目に値すると思いますが、 実際の政策は何をするのかな という気がしており、今後注視していきたいと思います。
デジタル行財政改革ですが、 自動運転レベル4の社会実装・事業化 を後押しするため、全都道府県で自動運転に係る事業性の確保に必要な初期投資に係る支援を行うほか、地域における生活物資の円滑な配送等を実現するため、送電網や河川でのドローン航路の設定を進めるとともに、 2023 年中に、無人航空機(ドローン)のレベル1・2(目視内飛行)について、無人航空機の飛行に関する許可・承認申請手続の短期化 を行うとともに、併せて、 レベル3飛行(無人地帯における目視外飛行)について、規制の見直しなどの取組により、2023年内に物資配送を事業化 するとしている点も注目かと思います。これはかなり スピード感を評価できる 内容かと思いましたね。今後に大いに期待したいと思います。
次に、GX実現に向けた専門家ワーキンググループ(WG)(10/26)の半導体分野の話です。デジタル化とともに半導体の電力消費量が飛躍的に増加しており、その対応が急務になっているため、同WGでは、半導体の省エネ化が議論されています。具体的にはパワー半導体について、 ウェハーをSi(シリコン)からSiC(シリコンカーバイド) 、 基盤を樹脂からガラスへ変換 することやデータセンターに関しては、 電気配線を光配線に置き換える(光電融合技術)ことで、省エネ化・大容量化・低遅延化(ネットワークシステム全体で電力消費1/100)の実現を目指す などが進んでおり、今回の経済対策でも多額の研究開発費が措置されています。このように GXと半導体政策は一見あまり関係なさそうですが、実は今後は二人三脚の政策 です。世の中がハードではなくソフトが付加価値の源泉になる中、この流れは止まらないと思います。
ただ、予算に隠れて税制の方の動きはよく見えていませんが、 補正予算が11月末から12月初旬にかけて審議 されたのち、最終的な落ちが見えてくるのかなと思っている次第です。さあ、 イノベーションボックス税制がどこに落ち着くか 、引き続き注視していきたいと思います。
筆者略歴
笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)
1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、機械情報産業局鋳鍛造品課、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:一般社団法人ソフトウェア協会)専務理事に就任。