「専務のツブヤキ」
~令和4年度予算の注目点は財政の単年度主義の弊害是正~
2022年1月15日
SAJ 専務理事 笹岡 賢二郎
新年明けましておめでとうございます。ただ、新年早々オミクロン株の蔓延で、1月9日から沖縄、山口、広島に「まん延防止等重点措置」が発令されました。そのため、当初1月19日に予定されていた当協会の賀詞交歓会も通常開催は中止し、デジタル庁副大臣をお招きして協会幹部による新年座談会に変更せざるを得ませんでした。昨年11月末に開催した協会名称変更パーティーの時の東京都の新規感染者は一桁台でしたので、オミクロン株の感染の急拡大ぶりには驚くばかりです。最近は、通勤電車もコロナ前並みに結構混んでいてテレワークに後戻り感が出てきていることや行動制限の緩和が影響しているような気がします。 協会としても引き続きテレワークの推進でこの第6波を乗り切っていきたい と思っております。私が申しあげるのも僭越ですが。 会員各社の皆様におかれましても、今一度、感染防止策の徹底に留意して頂くことが肝要 かと思う次第です。
昨年末に令和4年度の予算、107兆6千億円の政府原案が閣議決定されました。経産省の予算は、約1,2兆円ですが、補正予算が約5.6兆円ですので、併せれば過去最大規模の予算と言えるでしょう。ここで、私が注目するのは昨年10月8日に行われた岸田総理の所信表明演説の以下の行です。「第四の柱は、 公的分配を担う、 財政の単年度主義の弊害是正 です。科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備などの国家課題に計画的に取り組みます。これらに加え、地方活性化に向けた基盤づくりにも積極的に投資します。」とあります。補正予算で、 色々基金が組成されました が、私的にはちょっと不思議だったのですが、この行で納得した次第です。確かに、 科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備などの長期的な国家的課題は、次年度以降は国会次第ですなどと言っては民間企業もコミットできません 。研究開発が当該年度だけで直ぐに成果が見えないことは自明の理ですが、経済安全保障も熊本にTSMCが半導体工場を設立するのですが、それに対する数千億円の補助金(NEDOに基金を設立)は工場の建設の進捗に合わせて数年にわたって分割で支払われるので、次年度はどうなるかわかりませんではTSMCが納得するはずがありません。また、デジタル基盤インフラはもちろんのこと、橋や道路などの高度成長期に建設した重要インフラも老朽化が著しく、計画的に着実に更新をしなければ大変な経済的損失を生むことになります。
見過ごしやすい短い一言ですが、「公的分配を担う、財政の単年度主義の弊害是正」という行は 岸田政権の経済政策、とりわけ分配政策の大きな目玉 であったのではないかと私的には見える次第です。一方、ややもすれば基金は非効率の温床にもなりかねませんので、 定期的な執行状況のしっかりとした監視は必要 と思う次第です。
また、政府はデジタル分野では「デジタル田園都市国家構想」をテコに、昔の「日本列島改造論」をなぞらえて「 デジタル日本改造 」という考え方を打ち出しました。デジタル技術の徹底活用により、国・地方の行政のあり方の見直しと、産業イノベーション、デジタル基盤インフラ整備を進めて地域に新たな雇用と付加価値を生み出し、50年前の日本列島改造論で越えられなかった 「距離の壁」も克服 しようというものです。ただ、「距離の壁」に逆に守られてきた 地方のITベンダーに対しては、デジタル産業への真の変革を迫る ものであり、両刃の剣とも言えます。私としてはそれこそ 「DX推進研究会」の出番であり、期待したい と思っている次第です。
筆者略歴
笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)
1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(現:一般社団法人ソフトウェア協会)専務理事に就任。