「専務のツブヤキ」
~経産省はMMT推進か? デジタル産業の支援とデジタル人材の育成策~
2021年7月15日
CSAJ 専務理事 笹岡 賢二郎
7月1日は ソフトウェア協会(SAJ)として名実ともに新たなスタート なりました。また、経済産業省も同日に幹部の人事異動が行われ、事務次官が安藤氏から多田氏(前官房長)に代わるとともに、商務情報政策局長も平井氏(産業政策局長にご栄転)から荒井氏に代わりましたので、早速荻原会長ともどもご挨拶(対面)をさせて頂きました。
多田氏は、産業構造審議会で、アメリカや中国などが政府の産業支援を拡大する環境下では、「産業政策もこれまでと異なる新機軸が求められる」と指摘し、具体的には、「 財政出動がこれまでともすると小規模・単発的で、効果が中途半端であったのも否定できない 」とも発言しました。つまり、 インフレ率と金利が低いならば、財政収支悪化(財政赤字拡大)のリスクが小さい という、最近のアメリカの「主流的見解」は、「米国よりも低金利の日本でも当てはまる」と語っている訳です。ということは、「 大規模・長期・計画的」な財政拡大が必要と考えている方が経済産業省の事務方のトップに就任 したわけで、 MMT(Modern Monetary Theory)が日の目を見る( 新機軸か?)のも近いかも 、、、と思わざるを得ません。
ところで、当協会は2015年にファンドを立ち上げ、これまで22社のシード期のITベンチャーに投資をしてきましたが、近く 1社上場 することになりました。私も役人を辞めてまさかファンドマネージャーの真似事をするとは夢にも思っていませんでしたが、つくづくビジネス成功のカギはビジネスモデルや技術よりも、 経営者のビジネスの実現力、即ち、意志の強さ、マネジメント力、人を引き付ける経営者の魅力が重要 であることを思い知りました。投資を決定する時に投資委員会で経営者からプレゼンを聴くのですが、ビジネスモデルや技術についてのみです。ただ、どんなに優れたビジネスモデルや技術があっても経営者にその実現力が無ければ事業は失敗しますが、既にありふれたビジネスモデルや技術でも、経営者が優れていれば他のビジネスと差別化するなどして成功します。
しかしながら、どんなに 優れた経営者達も成長の途上で必ず直面する経営課題(ボトルネック)が人材 です。そのため、人材(特にデジタル分野)の育成・確保が我が国の経済成長のための喫緊の課題ですが、 政府もデジタル人材育成プラットフォーム的なものを検討 しているようです。これは私の思い付きですが、これら デジタル人材の学びを支援するために出世払いの奨学金制度又はそのための基金を創設 して、その基金から デジタル技術でビジネスを考えているベンチャー企業に出資 もすればどうでしょうか。ついでに、 奨学金をもらったデジタル人材が当該出資を受けたベンチャー企業に就職した場合、奨学金の返済条件を緩和 (例えば、有利子→無利子や一部又は全額の返済免除など)すれば、デジタル産業とデジタル人材の育成を一石二鳥で行えるような気がします。この様な成長戦略(スキーム)も一考の価値があるのではないかと思う次第です。
筆者略歴
笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)
1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。