「専務のツブヤキ」
~経済産業省(商務情報政策局)の概算要求から見る政策動向等~

2019年9月15日

CSAJ 専務理事 笹岡 賢二郎

 9月9日未明は久しぶりの大型台風の関東直撃でした。台風により被害にあわれた会員企業の方がおられれば心よりお見舞い申し上げます。報道によれば千葉県内を中心に90万世帯程が停電があったようですが、送電線の鉄塔が倒れている映像は最大風速60メートルの台風の凄まじさを嫌というほど感じさせられました。うちの家内は停電で冷蔵庫の中のものがダメになることだけを非常に心配していましたが、、、また、11日は内閣改造が行われ 経済産業大臣には菅原一秀氏が就任 されました。平成24年~25年(9か月間)にも経済産業副大臣を経験されてますので、これからのご活躍を期待したいと思います。

 例年通り、8月末に政府から予算の概算要求が出されました。そのベースとなる議論が8月9日に産業構造審議会総会で行われ、その公開されている資料(※)を見ると商務情報政策局からは「 デジタル時代の国際競争は『サイバー空間(ネットで完結)』から『サイバー空間とフィジカル空間の融合 』に移行」しているとのこと、以下の 5つの変化への対応策の方向性 が示されました。

①ビジネスモデルの変化

 巨大IT企業は、広告ビジネス(サイバーのみ)中心から、スマートホーム、自動走行、スマートシティといった サイバーとフィジカルが融合したシステム全体を提案 しています。その上で自らが『稼げる』領域を確保する動きであり、日本企業も『現場力』の強みを活かして、システムを提案できるチャンスかもしれません。そして、そのシステムを作るのは、アーキテクチャ(データ連携の設計図、標準)です。従って、社会ニーズ等を踏まえ、安全性・信頼性が確保された設計のためには、 官民が協力してアーキテクチャ設計に取り組む体制構築が必要とのことで、どうもIPAに新たな組織ができる (IPAの交付金増額)ようです。また、デジタルプラットフォーマー企業が、事業者・消費者双方を融合した両面市場を形成し、グローバル展開で当方もなく便益を増大させる一方で、一部でデータの寡占・独占や不公正取引も発生しているので、 デジタル・プラットフォーマー取引透明化法(仮称)を検討(次期通常国会?) しています。

②セキュリティモデルの変化

 セキュリティについては、個別企業・危機単位でのセキュリティ対策だけでは限界に達して来ているということで、サプライチェーン全体をカバーする 「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)」を本年4月に策定 し、スマートホーム等の分野から社会会実装化を図るとともに、データ通信・処理のコアとなる半導体やソフトウェアなど セキュリティ確保上重要な部品について信頼性あるサプライチェーンを確保するためAIチップの開発に予算が計上 されています。また、クラウドの安全評価体制の構築も行われるようです。

③企業のガバナンスモデルの変化

 昨年9月のDXレポート(2025年の崖)を受け、データやデジタル技術を使って顧客視点で新たな価値を創造する必要性の高まりと、既存システムのレガシー化・経営の足かせリスクに対応するため、 国が企業のコープレートガバナンスコードを社会のデジタル化に対応したものに改正 して、 当該コードに対応して優良な取り組みを行う企業を認定する制度を検討 (近く法案提出か?)しているとのことです。

④規制のモデルの変化

 (排ガス規制をクリアするため)ソフトウェアを悪用した検査結果の偽装など、旧来の規制手法で防ぐことが困難な事案が発生しており、デジタル化に対応し、 目視確認などのフィジカルな行為を前提とした規制からデジタル技術を前提とした法規制への改革 とともに、 企業の合理的な対応を自発的に促進する規制改革 が必要とのこと

⑤国際ルールの変化

 6月8/9日にG20貿易・デジタル経済大臣会合、6月28/29日にG20大阪サミットが開催され、米中摩擦、べ王相互不信、先進国・途上国対立の「3つの対立」がある中、進退によってデータの自由な流通を促進する 『Data Free Flow with Trust(DFFT)』 や「ガバナンスイノベーション」の重要性を20か国合意の大阪首脳宣言・閣僚宣言 に盛り込まれました。これを受けて、今後は、各国・各地域の制度の相互運用性確保に議論が移っていくものと思われます。

 以上が5つの変化への対応の方向性ですが、簡単におさらいすると、12月初旬(?)の臨時国会から来年の通常国会にかけて経済産業省中心に、DXに関しては企業に対する格付け制度、データ連携に関してIPAにデータ連携のアーキテクチャに関する新たな組織、デジタルプラットフォーマーに関する規制法、サプライチェーンのセキュリティ確保のためのAIチップの開発などの動きから目が離せなそうな感じです。

筆者略歴

笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)

1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。

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