「専務のツブヤキ」
~CSAJもAI人材育成に本格参入、新たな政策モデルか?~

2019年5月15日

CSAJ 専務理事 笹岡 賢二郎

 3月29日、政府の統合イノベーション戦略推進会議(議長:菅官房長官)から 人工知能(AI)を使いこなす人材を年間25万人育成する戦略案が公表 されました。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の普及やビッグデータの活用によりAIの知識が製品開発や事業展開に欠かせなくなり、年25万人目標の達成に向けた大学や企業の取り組みが始まります。これが30日の日経新聞の記事になり、私も知るところになりましたが、それは丁度、CSAJが厚生労働省に申請していた「 次世代AI人材育成訓練プログラム (以下「AIプログラム」)」(令和元年度~2年度)が採択(3月28日)された直後のことでした。

 今回の採択で意外だったのは、 入札参加者がCSAJのみだった ことでした。実は公募要領を見たとき、現在CSAJが厚労省から受託し、第4次産業革命を担う人材の育成を目的としている「高度IT技術を活用したビジネス創造プログラム(以下「創造P」)」と事業の基本的枠組みがそっくりだったことです。即ち、① 業界団体主導で業界のニーズに沿ったプログラムを作成 すること、② 実践的なカリキュラムを目指しアクティブラーニングを5割以上 とすること、③ 在職者を主対象 とするため通常業務との両立がしやすいように工夫することなどでした。厚労省のこれまで政策モデルは失業者を対象に個人のモチベーションに基づくキャリアアップを支援することに重きを置き、専門学校や民間教育事業者などにプログラムを開発させていくスタイルだったように思います。しかしながら、厚労省の担当者も創造Pの検討会に毎回出席し議論に参加しているうちに、第4次産業革命やAI分野の成長に労働市場が追いついていくためには、従来の政策モデルからの転換が必要と考えたのかな?と勝手に推測している次第です。業界団体に先端技術分野の人材育成プログラムを開発させるというのは、本来は経産省の政策モデルと思いますが、 厚労省の資金を活用して経産省的な政策手法でAI人材の育成に取り組むといのは府省の壁を越えた新たな政策モデル ではないかと思う次第です。従って、今回、入札参加者がCSAJのみだったのは、創造Pから生まれたこの新たな政策モデルに対応できる入札者(団体)がまだCSAJしかいなかったからと推察する次第です。

 ちょっと、日経新聞(3月30日付)がまとめた政府のAI戦略のポイントを見てみますと、

1. 全ての大学生・高専生(約25万人卒/年)に初級レベルのAI教育 を実施
2. AIと専門分野のダブルメジャーを推進
3. 大学に社会人専門コースを設置して学びなおしを 支援
4. 数理・データサイエンスの教育プログラムを政府が認定 し、就職に活用
となっており、要は人材育成が重要であるということに尽きるように思えます。

 AIプログラムでは、1年目(令和元年度)に教材・カリキュラムを開発し、2年目(令和2年度)に20名規模で講座(120時間程度、受講料は無料)を実施した上で教材カリキュラムの改善を行ったうえで、その普及計画を作成するというものです。CSAJだけでなく 、(一社)日本情報システム・ユーザー協会及び(一社)電子情報技術産業協会など関係する他の業界団体の協力 も頂きながら、今後業界を挙げてAIプログラムの開発に取り組んでいく予定です。

 たまたま、続けて同記事を見ていますと「 SOMPOホールディングスは、17年から社内外の人材を対象にAI関連の教育プログラムを提供する。自社で保有するデータを教材として提供して年に2回3カ月間ずつ開き、これまでに計100人を輩出 した。自社の採用も視野に入れ、一部は入社している。」とのこと、直ぐにSOMPOシステムズの社長である浦川理事に同AIプログラムの検討委員会(委員長:松居辰則教授)の委員への就任を打診したところ快諾いただきました。記事の中でも触れられていますが、 実践的なAI人材の育成を目指すには企業の保有する生データを教材に活用することが効果的ではないか との専門家の意見も頂いており、今後、検討委員会の中でしっかりと議論しなければなりませんので、浦川理事に委員として色々とご助言を頂けるのではないかと期待してのことでした。

 今後、CSAJの各会員もDX(デジタルトランスフォーメーション)の波は避けて通れません。そのDXの中核であるAI分野の人材の育成はCSAJとしても重要な課題と認識しており、その意味でAIプログラムには今後しっかりと取り組むべきと思っている次第です。

筆者略歴

笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)

1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。

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