「専務のツブヤキ」
~今後の情報政策の方向と銀行法の改正(FinTech関係)について~

2017年5月15日

CSAJ 専務理事 笹岡 賢二郎

 政府では年度も変わり、そろそろ来年度予算に向けた新政策の議論が始まりつつあります。そういうわけで、今回は最近の経済産業省を中心として色々聞きかじった情報政策の方向についてツブヤキたいと思います。
 先日ドイツで開催されたCeBIT(国際情報通信技術見本市)で経済産業省から『 Connected Industries【CI】(コネクテッド・インダストリー) 』というコンセプトが示されました。従来から事業所・工場や技術・技能等の電子データ化は進んでいるが、それぞれバラバラに管理されています。要はIoTということになりますが、それら データをつなげて有効活用し、技術革新、生産性向上、技能伝承などを通じて各種課題の解決を目指す ということがCIの本質( 『勝ち筋』 )と政府は考えているようです。そのため、これまではデータを収集し実証事業を行うにとどまっていたIoTに関する取り組みを、これからは 実際のビジネスモデルとして本格的に社会実装 を進めていくとのことです。
 その実現のため、

  1. データ流通・利活用の環境整備
  2. IoTビジネスの社会実装推進
  3. 新たな競争領域の担い手の創出

について今後以下の通り具体的に取り組むそうです。
 1.については、最近CSAJファンドで出資した企業(エブリセンスジャパン)も目指していますが、個人起点のデータの流通の実現です。パーソナルデータの利活用については、個人の関与を省く形で議論される傾向にありますが、いわゆる『 ディープデータ(個人の属性や趣味嗜好を、深く長く蓄積したデータ) 』の利活用については個人の理解無くして利活用の実現はあり得ません。個人の「納得感」を得ながらデータの利活用を目指す新たなアプローチ( パーソナルデータストア【PDS*1】、情報銀行、データ流通市場 )の実現により、「ディープデータ」の利活用が可能になるような気がします。そのためには、個人起点のデータ流通のメリットを見える化して、個人にとって利便性・信頼性の高いデータ流通の仕組みを構築することが肝要であり、是非来年度予算(又は今年度補正予算)で PDSや情報銀行等の具体的な実証事業 をお願いしたいと思います。

*1:個人が、自分の情報をPDSに保管し、個人自らが、事業者毎に、情報提供可否、提供内容等を決定する。

 また、事業者間でデーターオーナーシップの取扱いが明確になっていないが故にデータ流通が進まないという課題があります。これについては、経済産業省が データ創出への寄与度等に応じた利用権限の設定プロセスに関する留意点を整理 し、事業者間での適切な契約を通じたデータ利用権限の明確化を図るための「 契約ガイドライン(Ver.1.0) 」(現在パブコメ中*2【5月24日締切】)を今月中に策定する予定です。

*2: http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595217013&Mode=0

 2.については、引き続きIoT推進ラボを通じて、企業の先進的なビジネスのさらなる発掘・連携等支援を実施するとともに、詳細は今後の議論のようで不明ですが、実証事業後の実際のビジネス化・社会実装に結びつける「 IoTスタンダード *3」を構築するとのことです。規制や制度の絡む新ビジネスについては常に鶏か卵かの議論が付きまとい、それが新ビジネス発展の壁となっています。 新ビジネスを先取りするような制度変更を可能とするような『IoTスタンダード』ができることを是非望みたい と思います。

*3: 政府調達、規格化・標準化、導入義務化など制度の組込により面的普及を促進するひな形ということか?

 3.については、ブロックチェーンの実証事業等を通じたシステムへの実装を推進するとともに、シェアリングエコノミーの普及促進、 クラウドの投資促進 クラウドサービスの認証制度 の構築などが検討されているようです。特に、クラウド投資促進については主にクラウドを利活用するユーザー向けの優遇税制、クラウドサービスの認証制度(主にセキュリティなど)についてはその対象となるクラウドサービスの絞り込み要件として検討されていると思われます。これについては、CSAJとして今後とも機会あるごとに経済産業省に必要なインプット・要望書の提出を行っていくつもりです。
 経済産業省周りの最近の情報政策の方向性は以上の通りですが、今月中にも銀行法が改正され、今後FinTech関係が大きく変わり、FinTech業界主導で近く『 認定電子決済等代行事業者協会 *4』が設立される予定なのは皆さんご存じだったでしょうか? 聴くところによれば、今回の改正内容は、1.努力義務として 銀行等金融機関に対しオープンAPIの準備を求める (猶予期間:法施行から2年以内)一方で、2. API接続するベンダーを「電子決済等代行業者」として登録制を導入 するものです。そのため、銀行預金の参照や決済などを行う仕組みを持つ(又は、これから実装しようとする)ベンダーは代行業者として、金融庁に対して登録や銀行等金融機関との契約が必要となります。
 思うに、FinTech業界としては、正々堂々と銀行側から正式なAPIを情報入手・アクセスできることのビジネス上の意義・メリットは大きく、銀行側のAPI開放は努力義務ですが金融庁の行政指導により実質強制力を伴うものと期待としているようです。お話を聞くまでは、各金融機関のAPI解放は努力義務である一方、認定電子決済等代行事業者は登録制で色々と罰則を伴う法規制がかかるのは如何なものか?と思っていましたが、銀行側のオープンAPIが法的強制力を伴うと認定電子決済等代行事業者が許可制にされてしまいかねないと考えると、これで丁度良かったのかなと思い直した次第です。 認定電子決済等代行事業者の定義、範囲、セキュリティ対策などが今後の議論となりそう なので、CSAJ会員の中にも電子決済等代行事業者として登録する者があると思われますので、引き続き動向をフォローしていくつもりです。

*4: https://fintechjapan.org/resources/Documents/faj20170303.pdf

筆者略歴

笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)

1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。

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