「専務のツブヤキ」
CSAJファンド ~『死の谷』を乗り越える支援とは?~

2016年12月15日

CSAJ 専務理事 笹岡 賢二郎

 私がCSAJファンド(※)を担当し、出資先の経営者と定期的なヒアリングの機会を持つようになって約半年になりました。CSAJファンドの意義は、 先輩起業家が後輩起業家を育てる という意味で、出資のみならず、いわゆる 『死の谷』を乗り越えるための手厚い支援プログラムがセットになっている点 だと思います。特に、定期的な相談を兼ねた経営状況のヒアリングは役人上がりの私に本当にできるのだろうかと当初は緊張の連続でした。ただ、色々な話を聞いていくうちに、この例は他の出資先の参考になるなど分かってくるようになり、今ではこのような経営者には投資してもいいのではないかと漠然としたイメージも出来てきました。一見矛盾するようですが例えば『 夢を語れて現実を直視できる方 』です。 経営のビジョンでは夢を語り マネジメントでは現実を直視できる経営者 は私的には信頼できます。
 また、シード期にベンチャー経営者が陥る『死の谷』も見えてきました。 一番の難問はマネタイズ です。製品やサービスのアイデアが良く、市場の成長性もあるということで起業する方々も、それをどうやって自社の収益にしていくかというところで壁に当たります。特に、 重要だと思ったのは価格政策 です。例えば、最初無償で製品・サービスをリリースし、認知度が上がったところで有償化というパターンは余程有償化に移る際に工夫しない限り上手く行きません。また、安易な価格設定も然り。安値で受注が伸びても、十分な収益を得られる価格でないとその後の体制整備のための資金が追い付きません。
 その意味で某メンターのセミナーでの話は非常に印象的でした。例えば、パッケージゲームソフトで成功した方でしたが、当時売値の18~20%が卸値の常識であったところ、55%にしたとか、突然価格を2千円値上げしたなど、業界の常識から外れる価格設定を行い当初は問屋から大変な非難を浴びたそうです。前者は某販社だけがその条件をのんでくれ、またソフト自身の人気もあり、販社も儲かり上手くいったそうです。後者は問屋が値上げしても売れるようにむしろ進んでソフトの評判を上げてくれて、最終的に値上げ分は問屋も丸儲けですので大いに喜ばれたとのオチでした。
 このように 先輩起業家(メンター)によるセミナーは完全オフレコでCSAJファンドの出資を受けた起業家だけが聴ける非常にプレミアムなもの だと思います。オフレコのためここでこれ以上詳しくは語れませんが、その内容は経営者としての心構えに始まり、経営理念の考え方、法務的な要点、人材管理など経営の要点多岐にわたります。特に、 メンターの方々が大成するまで数々の修羅場を潜り抜けてきた話は、変化の激しい経営環境をどのように読んで対処すればいいのか、まさに『死の谷』を乗り越えるという点で大変参考になった と思います。
 そして、これらメンターによる支援セミナーが全て終了した後の集大成として、12月7日に東京ミッドタウン(@六本木)でCSAJファンドが今年出資した企業8社による最終DemoDayが開催されました。私もメンターの一人として壇上に上がり、全社のプレゼンを聴かせて頂きました。聴衆の方々は大部分がベンチャーキャピタルの担当者の方々です。企業によっては今回のプレゼンで事業のことをよく理解してもらい、今後の追加出資につながればと考える場合もあり真剣勝負でした。その後の懇親会は非常に盛会でしたので、ベンチャーキャピタルの方と支援企業との間に良いご縁ができて、今後のプレゼン企業の飛躍につながるご支援を得られることを切に願う次第です。

CSAJファンドの概要

ファンド名称 CSAJスタートアップファンド投資事業有限責任組合
(略称:CSAJファンド)
無限責任組合員(GP) 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会
出資規模 2.85億円
存続期間 7年を想定(最大3年延長可能)
主な組成投資家 (株)豆蔵ホールディングス、(株)フォーラムエイト、サイボウズ(株)、(株)コー エーテクモキャピタル、さくらインターネット(株)、フリービットインベンスメ ント(株)、(株)コスモ・コンピューティングシステム、(株)大塚商会、IoTス タートアップ(株)、キャピタル・パートナーズ証券(株)、(株)アイビス・キャピ タル・パートナーズ、(一社)コンピュータソフトウェア協会(無限責任組合員) 等

筆者略歴

笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)

1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。

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