「専務のツブヤキ」
最大40%の法人税が減額される研究開発税制をご存知ですか?
2016年11月15日
CSAJ 専務理事 笹岡 賢二郎
皆さん、研究開発税制ってご存知だったでしょうか?
基本的には
試験研究費の総額の8~10%を税額控除
、すなわち
支払った法人税額の上限25%の範囲内で減額してもらえる制度
※1です。控除率は使った試験研究費を過去3年間の売上の平均額で割った試験研究費割合によって8%+試験研究費割合×0.2(上限10%)の式に従って計算され、いくらその割合が小さくても最低控除率は8%、試験研究費割合が10%以上であれば一律10%(上限)で、法人税額の25%(上限)まで減額されます。
例えば売上10億円(過去3年間の平均)の企業がその年に試験研究費に1.5億円支出し、その年の支払うべき法人税が5,000万円の場合、試験研究費割合が15%(1.5億円/10億円)ですので控除率は上限一杯の8%+15%×0.2=11%>
10%(上限)
となります。従って、
法人税の控除額は試験研究費1.5億円×控除率10%=1,500万円ですが、法人税の控除額の上限25%、1,250万円
(=5千万円×25%)を超えますので、減額される税金は1,250万円までとなります。
さらに平成28年度までの時限措置では、細かい要件の説明は省きますが、例えば今年度の
試験研究費を過去3年の平均の試験研究費より5%以上増加させた場合、その増加させた差額部分(上限30%)について税額(法人税額の10%が上限)を控除
※2できます。さらにこの他、詳しい説明は省きますが、
大学等の研究機関と共同研究した場合に適用(控除率20~30%)
※3される研究開発税制もあり、
法人税額の最大5%まで減額されます。
ということは何と、これら3つの研究開発税制を全て使えると理論的には25%+10%+5%で
最大で法人税額の40%まで減額してもらえることが可能
になります。
例えば、先ほどの例で、試験研究費1.5億円の内、
1,000万円が大学等への研究委託費
で、
過去3年間の平均の試験研究費がたまたま1.2億円
だったとします。すると以下の表に示す通り、
法人税5,000万円のうち40%、2,000万円が減額
される計算となります。
|
控除税額 | 計 算 式 | 控除額の上限 |
---|---|---|---|
合 計 | 2,000万円 | 1,250(25%)※1+500(10%)※2+250 ※3(5%)=2,000万円(40%) |
2千万円 (5千万円×40%) |
※1 | 1,250万円 | 1.5億円×10%(上限)=1,500万円 >1,250万円(上限) |
1,250万円 (5千万円×25%) |
※2 | 500万円 | (1.5億円-1.2億円)×25% (=1.5億円/1.2億円)<(上限30%) =750万円>500万円(上限) |
500万円 (5千万円×10%) |
※3 | 250万円 | 1,000万円×30%(大学との共同研究) =300万円>250万円(上限) |
250万円 (5千万円×5%) |
では、試験研究費って何でしょう。
「製品の製造」又は「技術の改良、考案若しくは発明」
にかかる試験研究のために要する費用ということですが、
必ずしも新製品や新技術に限らず、現に生産中の製品の製造や既存の技術の改良等のための試験研究であっても対象
となるそうです。但し、事務能率・経営組織の改善に係る費用や販売技術・方法の改良や販路の開拓に係る費用などは単なる改良・改善ということでこれまでは試験研究費の対象になりませんでした。しかしながら、来年からは少し変わりそうです。現在経済産業省が
『サービス開発』という新たな概念を試験研究費の定義に入れる
べく財務省と交渉しているからです。基本的に
『ノウハウ』のような暗黙知をセンサーなどを駆使して数値データ化(形式知化)して、AIによって解析した結果新たな知見や法則を発見し、それに基づきマーケティングやマネジメントを飛躍的な向上させた場合や新たなサービスの創造につながる
ようであれば、そのためにかかった費用は試験研究費として認めようというものです。暗黙知を形式知にするツールは当然IT、ソフトウェアということになりますので当協会の会員企業にも新たなビジネスチャンスとなりますし、これまで研究開発税制なんて関係ないと思っていた企業の皆様にも税金を減額してもらえるチャンスという意味で朗報になるかもしれません。
ただ、本税制が適用されるにはもう一つハードルがありました。いわゆる
「専ら」要件
というやつで、試験研究費のうち、人件費については、「専門的知識をもってその
試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る
」とされていることです。「専ら」要件に該当する者としては、(1)
試験研究を専属業務とする者
(試験研究部門に属している者や研究者としての肩書を有する者等)、(2)
研究プロジェクトの全期間中従事する者
などがこれに該当します。中小企業など一人で何役もしている場合などはたとえその者が研究開発に携わっていてもその人件費分は試験研究費に見なされないかもしれないということです。ただし、そこは蛇の道は蛇という訳ではありませんが、
会社の組織図に研究開発部門らしい名前の部署を設置していてその者にその部署の研究者の肩書を与えていた場合
、その者がたとえ試験研究以外の仕事をしていることがたまたまあったとしても、私的には税務署はその者の人件費を試験研究費と見なさざるを得ないのではないかという気がします。
皆さん、ちょっと研究開発税制に関心を持ってみては如何でしょうか?
参考URLは以下の通りです。
筆者略歴
笹岡 賢二郎(ささおか けんじろう)
1961年生まれ、1983年に通商産業省(現経済産業省)入省、機械情報産業局電気機器課、科学技術庁、資源エネルギー庁、立地公害局、防衛庁、工業技術院、基盤技術研究促進センター、JETROクアラルンプールセンター、文部科学省、四国経済産業局などの勤務を経て、2005年7月より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2007年7月より九州経済産業局地域経済部長、2009年7月より中小企業基盤整備機構の業務統括役兼総務部長、2011年7月独立行政法人情報処理推進機構の参与兼セキュリティセンター長などを経て、2013年7月から東京工科大学にてコンピュータサイエンス学部 コンピュータサイエンス学科教授、片柳研究所所長、工学部 電気電子工学科 教授兼コーオプセンター長。2016年6月に一般社団法人コンピュータソフトウェア協会専務理事に就任。