「愛と繁栄を実現する経営改革」”弱み克服”の弊害
2018年3月1日
CSAJ 監事 公認会計士・税理士・ITコーディネータ 山田隆明
IT業のA社はいわゆる「なんでも屋」である。
売上の主力は通信関係事業で、それがA社の強みだ。
A社はこの他に、パッケージソフト事業、ゲームソフト事業、ハードウェア製造事業などいろいろと手掛けており自らを「総合IT業者」と謳っているが、A社にとってこれらの事業は強みではない。
こういう状況のなかで、通信関係部門のヒトとそれ以外の部門のヒトとの間にアンバランスが生じてきた。通信関係部門は人手不足のため多忙で残業が多いが、それ以外の部門はヒマで仕事が楽だ。社員の中から不満が出始めた。
人手不足の通信関係部門では受注に開発が追い付かない、他部門はその逆だ。
そこで会社は慌てて、開発部門を束ねるシステム部長に命じてヒトの異動を図ろうとしたが、社員の側が承知しない。今の楽な部門から辛い部門へ行くのはいやだとの本音が出たのだ。なんとか説得して異動させても、長続きせずに辛くて辞めてしまうという始末で、いまだにアンバランスは解消していない。
この話は「弱い事業に手を出すことの弊害」を如実に物語っている。
この状況下で解決策をシステム部長に丸投げしてもダメだ。社員が異動をいやがるのは当然で、けっして社員が悪いのではない。システム部長でもない。そもそも事業選択に関する経営者の判断ミスが原因だからだ。「弱みを克服して総合IT業者を目指そう」として、弱い事業に経営資源投入を決定した経営者の判断ミスだ。ヒトがヒマになるほど売れないのは、お客様が買ってくれないからだ。ライバル社の商品より劣るものをムリに売ろうとするから、こういう形で歪みが生じてくる。
いつも申し上げるように、会社経営は「強みを追及すべき」であって、「弱みを克服すべき」ではない。
なぜなら、会社の目的は「お客様の要求に応えて、お客様に満足いただく」ことにあり、「強み」こそがお客様の要求を満たす要因だからだ。また、弱い事業を廃止するには大変な労力を要することからも、余計な事業に手を出すべきではない。「強み」の事業に集中し、「弱み」の事業を廃止するのが経営者の役割である。
このケースで経営者のすべきことは、
(1) 通信関係事業にヒト・モノ・カネを多く注入し、同事業のヒトの負担を緩和するのみならず、同事業のヒトの待遇を向上させること。
(2) 現場へ足を運び、現場のありのままの状況を把握すること。
(3) あわせて、弱みの事業、将来性なき事業を廃止すること。
である。
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(注)本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、当協会の見解を示すものではありません。
筆者略歴
山田 隆明(やまだ たかあき)
山田隆明公認会計士事務所 所長
公認会計士・税理士・ITコーディネータ
1959年 名古屋市生まれ。東海高校、慶応義塾大学経済学部卒業 。
株式会社インテック(基幹業務パッケージソフトの企画及び販売)、
監査法人(会計監査)を経て、
2003年 山田経営会計事務所開業、現在に至る。
---税務だけでなく、経営判断のための会計、人をヤル気にする会計を。
2009年9月から一般社団法人コンピュータソフトウェア協会監事。