「愛と繁栄を実現する経営改革」未来会計志向経営
2016年7月1日
CSAJ 監事 公認会計士・税理士・ITコーディネータ 山田隆明
1.外部公表用の過去会計vs.内部経営用の未来会計
会計事務所は過去会計ばかりを扱いますが、経営に有益なのは未来会計です。
財務諸表や経営分析などはいずれも過去の数字だけを扱うので過去会計です。
過去の数字はいくらいじくり回したところで経営が良くなる訳ではありません。
かく言う私も会計士の勉強を始めた頃には、なぜ過去会計ばかりなのかと疑問に思ったこともありました。しばらくして分かったのは、外部公表用だからだということです。税務署、銀行、株主、取引先など外部に公表するにはウソのない情報が必要なので過去の数字しか出せないのです。例外的に外部公表の決算短信に将来業績予想という未来情報の欄がありますが、体裁よく見せようと背伸びした金額をよく見受けます。そして期中になって下方修正するケースを。これでは外部者の判断を誤らせかねず、役に立つ情報とは言いかねます。未来情報は外部公表用には不向きです。
過去会計というものは外部公表用として制度上義務化されているのでやらざるを得ないのです。義務なので一般に会計といえば過去会計ばかりになってしまうのです。
一方で、経営管理に有益なのは将来の数字すなわち未来会計です。今までどうだっかたという情報より、今後どうなるかという情報です。今後の見通しにもとづいてどういう対策を打つかということが、経営者の最重要業務である経営意思決定なのです。
2.未来会計とはいったい何をどうすればよいのか
経営者の中には、なんとなくでも未来会計の大切さを認識されている方は多いようです。大切なのは分かるが、いったい何をどうすればよいかがいっこうに分からない、しかも誰に訊いてよいかも分からないというのが実態のようです。
T商店は、会計事務所の指導に従い社内に会計専任者を置いて自社で会計処理を行っていました。例によって過去会計ばかり。社長であるT氏は未来会計の必要性に気づいてはいても、何からどう手を付けてよいか分からず実践できないでいました。いつも支払期日が来てはじめて資金不足に気付きあわてて銀行へ借入に走ることの繰り返しでした。いわゆる「成行経営」です。
その銀行もいつまでもだまって貸し続けてくれるわけではありません。ある時「もうそろそろ限界ですよ」と言われてT社長は青くなりました。相談を受けた私は「銀行と交渉して返済を待ってもらうよう」迫ったものの、社長はプライドが高くて銀行に頑として頭を下げようとしません。
そこで私は社長を説得すべく、未来会計の第一段階として今後の資金繰り予測を立てさせました。今月の収入はいくら支出はいくらで差し引き残高はいくらになるかの予測です。当初はこの程度のことすらやってなかったのです。これを数カ月先まで立てて、いつ資金が底を突くかを予測し、対策として考えうる資金調達手段を全て挙げて社長に選択を迫りました。ここまできて社長もやっと「銀行に返済を待ってもらうしかない」ことを理解し銀行交渉にあたったため、当面の破綻の危機は回避できました。
この話を読まれた皆さんの中にはレベルの低さに呆れる方も多々おられるでしょうが、この手の成行経営が中小企業では結構多いのが実態です。それでいて本人は「オレの”勘ピュータ”はよく当たるんだ、だからちゃんとやっているんだ」と思い込んでおられる、実状は大きくハズレているにもかかわらず。
未来会計の第二段階として、当面の資金がある間に会社を安定させる対策を打ちました。
対策というのは営業の立直し・強化です。本稿で以前書いたように「追求すべきはお客様の利益、すなわちお客様が満足されれば結果的に自社の利益になる」を何度も説得し実践させました。言い換えれば、経営理念・ビジョンの策定と浸透です。時間と手間はかかったものの説得の甲斐があり成果が出てきました。
未来会計の第三段階は、中長期経営計画の立案です。まず経営方針と事業戦略から取り掛かります。経営方針とは、”マーケットニーズは何か”および”当社の強みはどこにあるか”にもとづき、”当社はどの事業に力を入れるか”の基本方針を決めることです。事業戦略とは、経営方針にもとづき、”何を売るか・何を捨てるか”、”誰に売るか”、”どうやって売るか”などの戦略を決めることです。
経営方針・事業戦略を立てたら、これらにもとづいた数字を入れます。
数字を入れたら、次はその数字を達成するための具体的方法です。”どうやって達成するか”、すなわち”だれが”・”いつ”・”どう動くか”です。これをていねいに作らないと社員は動けません。作ったら社長が社員を集めてしっかりと説得します。
ここまでが計画であとは実践です。PDCAを回し、定期的にCheckを入れActionを講じます。
その結果、長い道のりでしたがやっと「成行経営」から脱することができました。
当初、資金繰り管理すらできていないのを見たときは、さすがにこれではモタないと思い廃業を提案したこともありました。しかし社長の「未来会計をやるんだ!成行経営から脱するんだ!」との強い想いが推進力になりました。
未来会計の数字は、今後の見通しです。しかし数字だけを一人歩きさせてはなりません。今後の環境変化に対応するよう、第二段階で行った将来の理念・ビジョンの策定・浸透も数字は入っていませんが未来会計の一環です。そして、それにもとづいた第三段階の経営計画立案・実践まで含めた全体が未来会計です。
すなわち、未来会計とは経営計画を立てて実践することと言えましょう。
(注)本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、当協会の見解を示すものではありません。
筆者略歴
山田 隆明(やまだ たかあき)
山田隆明公認会計士事務所 所長
公認会計士・税理士・ITコーディネータ
1959年 名古屋市生まれ。東海高校、慶応義塾大学経済学部卒業 。
株式会社インテック(基幹業務パッケージソフトの企画及び販売)、
監査法人(会計監査)を経て、
2003年 山田経営会計事務所開業、現在に至る。
---税務だけでなく、経営判断のための会計、人をヤル気にする会計を。
2009年9月から一般社団法人コンピュータソフトウェア協会監事。